その態度が気に

あぁ。話進まないじゃない。とりあえず中入れ」
「あ、ごめん湯川」
「ごめんなさい。湯川さん」
 私と晴美はそう言って奥へと入る。その態度が気に入らなかったのか、湯川麻子が「もう」と牛のような声を出す。

「なんでそんなによそよそしいのよ。同じ部員で同じ学年でしょ。私のことは麻子でいい。私も、聖香、晴美って呼ぶから」
「じゃぁ私は葵で」
「久美子」
 ここぞとばかりに先輩二人が会話に入って来る。いや、でも先輩は呼び捨てに出来ないから葵先輩と久美子先輩かな。

「あれ? そう言えば、なんで私の名前を知ってるのかな」
「昼休みに永野先生に聞いたの。って、なんで晴美は私の名前を知ってるの」
 麻子が不思議そうな顔になる。

「聖香が言ったから、そのあとに続いて言っただけかな」
 晴美の苦笑いに麻子は意味が分かったらしく、赤面して大人しくなった。
「やっと静かになったわね。みんな聞いて」
 葵先輩の一言に私達は一斉に注目する。

「今日から、この六人で女子駅伝部が正式にスタートよ。もちろん目標は都大路出場!」
 かなりのハイテンションでそう言いながら葵先輩が指を指した先には
『目指せ!都大路 桂水高校女子駅伝部』
 と書かれた手書きの横断幕が壁に貼り付けてあった。

「あれ、昨日まではなかったのに。もしかしたら、葵さんが作ったのかも」
 私の横にいた麻子がそっと耳打ちして来る。

「ところで聖香。都大路ってなに?」
 さらに声を小さくして恥ずかしそうにする麻子。あ、そうか。麻子、中学はバスケ部だから知らないのか。

「十二月にある全国高校駅伝が行われる京都のコースをそう言うのよ。つまりは駅伝の全国大会。各県で一チームしか出場できないの」
 私も小声でそっと教えると、麻子もなるほどと頷いた。

 駅伝部に入って最初の土曜日。基本的に土曜日は午前中が練習時間となっている。無事に練習も終わり、部室にみんなで戻って来る。そう言えば、私自身、この明らかに物置にしか見えない建物を部室と呼ぶことに違和感が無くなっていた。慣れと言うものは恐ろしい。まぁ、中にはブルーシートが敷いてあり、その上で着替えたりしているので綺麗ではあるし、広さも12畳くらいありシューズを置くための棚と古いスチール製の机がある意外は何もなく、快適ではあるのだが。

「あぁ、お腹すいた」
「私も葵に同感」
 部室に入るなり、葵先輩と久美子先輩がお腹を押さえながらだるそうに言う。と、思うとイキナリ葵先輩が私達の方を見る。

「ねぇ、せっかくの土曜日だし、みんなでお昼を食べに行きましょう。一年生の歓迎会を兼ねて。」
 その一言にみんな目を輝かせる。そうと決まれば善は急げと、全員急いで着替え、学校から一番近いファミレスへと自転車を走らせる。

 店内に入り、何を食べようかと吟味していると、葵先輩がボタンを押す。すぐにウエイトレスがやって来て、葵先輩がオーダーする。

「えっと……オムライスカレー、たらこスパ、和風ハンバーグ単品、から揚げバスケット、野菜炒め盛り合わせ、チーズドリア、イタリアンピザ、卵焼き、すべてひとつずつでお願いします」
 ウエイトレスが注文を繰り返し、厨房へとオーダーを伝えに行く。

「葵さんよく来るんですか? あたし、何にしようか決められなくて困ってました」
「同じく。まずは今の注文分を食べきって、まだ入るようなら追加しようかな」
 麻子と晴美がそう言いながらメニューを閉じる。

「それ、勘違い。あ、一年は初めてか」
 久美子先輩は自分で言って一人で納得していた。
「今頼んだ注文、みんなの分じゃないわよ。あれ全部うちの昼御飯だから」
 その一言に私達一年生四人は目を丸くする。

 そして、次々に注文の品がやって来て、すごい勢いで葵先輩の体に収まっていくのを目の当たりにし、私達は自分の御飯を食べるのも忘れ、あぜんと見ていた。

「ちょっとありえないかな」
「これはすごいかもぉ」